富公 狸小路 日本一のラーメン屋
札幌市中央区

40数年前から通っていた富公。
無くなってから、久しい。

さっぽろテレビ塔の仕事を終えると、足を運ぶところが2カ所あった。
1つは大通り沿いにあった喫茶店。
バーテンダーを指名して、サイフォンで入れたコーヒーで仕事の疲れをとるのが楽しみだった。
そしてもう1カ所が富公だ。
富公と言うと、狸小路と思われがちだが、
元々は大通りからすぐ脇のビルに挟まれた所にあった。

この暖簾を何百回とくぐったことか。
スープの一滴まで飲み干したが、飽きることは全く無かった。
一気に仕立てた野菜と共にスープが非常に香ばしく、
醤油味が、独特の焦げ深い濃厚なコクとなる。

仕事柄、観光客に「旨いラーメン屋さんは何処か」よく訊かれた。
そんなときはいつも富公を薦め、店内での「おきて」も必ず教えることにしていた。

無口な親父さんだった。
「ごちそうさまでした」
「オウッ」
それがずっと繰り返されていた。

一度だけ
「仕事、終わったのか」
「ハイ」
声をかけられたのは、後にも先にもそれだけだった。

頑固一徹な偏屈親父と言ったところだが、
全ては旨いラーメンを食べてもらいたい、その一心からきているのだろう。
メニューなど無く、味噌風味の醤油仕立て一本のみだ。
客は土間に設けられた椅子か小上がりに座るだけで、注文は聞かない。
それだけ仕事に集中できる。
「おあいそは?」
ここに入れろと言わんばかりに、あごでぶら下がっているかごを指示する。


たまに一見の客が「お冷や下さい」「おつり!」と言おうものなら、
ムッとなって「自分でやれ!」と怒鳴り返す。

野菜を中華鍋に放り投げ、豪快な炎のまくし立てなどに構いもせずに一気に仕上げる。
麺の湯切りも上に下にと非常に切れがよく、一連の仕事に無駄がない。
運ぶときに、出っ張っていた椅子でつっかえようもんなら、
「もう!こんなもん食わせられん!!」
少しでも手間取ると、ラーメンがザアッと投げられてしまうこともしばしばだった。
食べ終わってもたもたしていると、
「食ったら、早く帰れ!」と追い打ちをかける。
元祖行列が出来るラーメン屋と言ったところだが、寒い客にも早く食べてもらいたかったのだろう。

店内では親父さんの手さばきとラーメンをすする音だけが聞こえる。
旨いラーメンを食べてもらいたい。旨いラーメンが食べたい。
店主と客の考えは見事に合致する。
シンプルだが、これ以上必要あるまい。
その証拠に、何度怒られようが、みんな満足そうに帰っていく。

また怒鳴られながら食べてみたいものだ。 

追記
 ※親父さんがシャッターを閉めて休業状態の後に「一徹」という店が出来たが、試したことはない。
 ※富公が無くなって以降は狸小路地下1F「味の起平」にお世話になっている。だが富公を10とするとせいぜい7だろう。
 ※上記の写真はイメージ。実際は白濁しつつ濃厚でもっと旨そうである。


  • 住所    北海道札幌市中央区南三条西7丁目(最後の場所)
  • 連絡先        
  • アクセス  札幌市営地下鉄東西線大通より数分 
  • 営業時間    
雰囲気…   味…  料金…

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