ほのぼの

徒然なるままに
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  微笑ましい老夫婦

最近は、微笑ましいような夫婦が少なくなっているようですが、
次に紹介するのは、優しさを持ち合わせた、
見ていて爽やかな印象を持った方々です。



ある百貨店の靴売り場に老夫婦がやってきました。
どちらも75歳を軽く超えている年齢のようです。

夫の方は足元が定まらず、
見ていていかにもよれよれしていて、危なっかしい足取りでした。
それに比較して妻の方は背筋もピンと張り、足取りも軽やかです。
二人を見ると、まさに好対照な歩き方をしていました。

年齢がかなりいっているものの、とりわけ印象的だったのは、
仲良く手をぎゅっと握りあって歩いていたことでした。

二人で婦人靴を買いに来たのでしょう。
妻のために、
よちよちと足元がおぼつかないのも気にせず、あれこれ選んでいます。
その度に妻の方はどこかすまなそうに、持参した靴に足を通していました。

かれこれ10数分が経過したところで、やっとお気に入りの一足が決まったようです。
見た目は少し地味なものの、
落ち着きがある茶色のバックスキンで、今風の靴に決定しました。
してやったりと満足そうに喜んでいる夫と、
はにかんでいるように笑みを浮かべている妻。

二人で手を握りあって買い物に来たこと自体が微笑ましいのに、
その後に言った夫の言葉が、まさに男気のあるものでした。
「おまえはな、ここで寄っかかって休んでろ。俺は今レジに行って来るからな」
そう言って、あっちによれよれ、
こっちによれよれ蛇行しながら、
10数メートル先のレジまで向かったのでした。
その間妻はどこかの壁に頼ることなく、しゃきっと待っていたのは間違いありません。


「んじゃあ、帰っとすっか」
「ええ」
来たところを戻っていく姿は、
店に入ってきたときと同様に夫は相変わらず、よれよれ。
妻はすたすた軽快な足取りでした。

それは誰の目から見ても、夫が妻を連れて歩いているのではなく、
妻に手を差し伸べられている夫の姿でした。

足元がおぼつかぬ夫でしたが、
それでも妻を気遣う姿は、暗んだ雨雲を跳ね飛ばし、
爽やかな風を送り込むような、晴れ晴れとしたひとときでした。