我が家の近くに暮らしているカラスの世界であった本当のお話です。
カラスをよく観察したことがあるでしょうか。
色が黒くていたずら好きのために嫌われがちですが、
ヨーロッパではワインラベルの黒い猫でお馴染みの通り、
他の動物と共に珍重されて大切にされています。
我が家の近くには残された緑地があり、
沼もあるので、
沢山のカラスがそこで棲息しています。
朝方になると、何千というカラスがあちこちに“出動”し、
また夕刻になれば、電線が真っ黒になるほどにとまり、
点呼をとっているのか、
あっちでガア
こっちでガアッ
ガコッと鳴きながら
寝床の山に戻ります。
このカラスたちのいいところは、
毎日出される生ゴミには一切見向きもしないことです。
また道路まで降りてきて、いたずらをすることも決してありません。
ですから、何処でも言われているようなゴミを散乱させたり、
危ない行為をしたりするということは、この街では起きないのです。
さてそんなカラスの世界でも一度異変が起きました。
ある昼時のことでした。
何百というカラスが、異様なほどに低空を旋回していました。
そこを一台の車が通り過ぎていったのですが、
その時ならぬ異常な飛び方に気づいたのか、走りすぎた後にその場所に戻ってきました。
車に乗っていた女性は、何か異変を感じたのでしょう。
旋回の中心あたりの道路付近をよく見てみると、
乾いたアスファルトの中央あたりに、一羽のカラスの死骸が無惨なほどに張り付いていました。
多分道路に降りてきたカラスが、たまたま車にひかれてしまったのだと思います。
アスファルトの路面では、いつまで経ってもその死骸は土に還りません。
その女性はトランクから軍手を取り出し、
カラスの遺骸をそっと手に取って山の中に入り、木の幹の草むらの陰におきました。
そしてまわりの土や枯れ葉などをかぶせてあげました。
女性の戻ってきた姿を認めると、小さく一声鳴きました。
上空を回っていたカラスは固いアスファルトの路面で死んだ仲間を哀れみ、
悼んでいたようです。
群をなして飛んでいたカラスは旋回をやめて、
納得したようにその場を離れ、
何もなかったように北へ、南へと飛び去っていったのでした。