いっぽいっぽ

徒然なるままに
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  きずな 一歩前へ

for the children of Fukushima

僕達は1年前、大きな悲劇を体験した。

その日までは悲劇ってテレビの中や、きっと遠くの国で起こることだと思っていた。
あの日からの数日、数ケ月。
大好きなあの野球選手も、この間家族で見に行った新しい新幹線も、
駅前の大好きなお菓子屋さんも、いったん消えてしまった。
夏休みに行ったあの場所に、今は行けないなんて信じたくない。
あの日までは家族も友達もみんなそばにいる。
当たり前の存在だと思っていた。
世の中はちょっとずつ変わっても、僕達の周りの世界はずっとこのままだと思っていた。

学校では沢山のことを期待されるけれど、
時には上手くいかなくて苦しくなったり、
みんなといるのに一人ぽっちを感じたりすることもある。
同じものを見たってあの子は楽しそうにしてるけど、
僕にはつまならかったり、昨日面白かったことが、今日は物足りなかったり…
あの日まで考えていた大切なものって何だろう。

私は友達が大切。大好きなお菓子を作ってきてくれて、すごく嬉しかった。
僕はマンガとテレビゲーム。
この世の中にマンガとテレビゲームが無いなんて超退屈。
時々意味わかんないことで怒られて嫌だけど、やっぱりお父さんお母さんが大切。
あとけんかもするけど、弟も大切。
僕はサッカーボールとシューズ。
道具を大切にすると、すごく上手になれるって、イチローも言ってたし。
でもさ、モノや人も大切だけど、自然も大事じゃない?
よくエコエコっていっつも世の中騒いでいるでしょ?
資源を大切に…かあ。海や川が汚れていると魚も元気に住めないし。
元気な土と綺麗な水が無いといい野菜は育たないって、おじいちゃんが言ってた。
それにお魚、美味しいから大好き!

大切なものを挙げればきりがない。
悲しいことだって日々起こる。
悲しいことって何だろう。

この前、犬のラッキーが天国に行っちやった。
思い出がたくさんあるから、私も家族のみんなも悲しい。
すっごく気の合う友達が、夏休み前に2人も転校しちやった。
メル友になって、せっかく仲良くなれたと思ったのになあ。
どこかの国で戦争が起きてること。
テレビで、僕と同じくらいの年の子がおっきな銃を持って市街地を歩いてたのを見た。
その子、双子の妹と両親が目の前で殺されちゃったんだって。
あーあ、テストで90点取ったのに、お母さん誉めてくれなかった。
次は100点取りなさい、お姉ちゃんはずっと100点だったって…。
いつも一人ぼっちでいるクラスの子がいることが、悲しい。
あ、でも周りが気になって、知らん振りしている自分はもっと嫌い。
お父さんとお母さんが昨日からけんかしてる。
お互い間違ってるって言っているけど、どっちが正しいかなんて、どうだっていいよ。

一人一人似ていたり、違っていたり…。
毎日真剣に悩んでいたし、それなりに頑張っていたと思う。
でも、それは「コップの中の嵐」だと気づく事になった。
3月11日、あの出来事を経験してしまったから。

夢だと思いたかった。
怖かったこと、本当に悲しいことが次々あった。
あの町や村が一瞬で消えてしまった。
福島では大人達のつくったモノが取り返しのつかない事になった。
今までは大変なことが起こっているのは、達い国のことで、
僕達を取り巻く世界は、ずっとこのままだと思っていた。
飛行機や鉄道はどこにだって連れていってくれて、
駅前の美味しいスイーツも、
お母さんの機嫌のいい時にお願いすれば、
冷蔵庫に入っているものと思っていた。

でもあの日を通して、
戦争だけが僕達の平和を壊すものじやないことに気づいた。
平和なんて誰も約束できないことに気づいてしまったことに、今も胸が苦しい。
時々不安で怖くなることもある。
僕達も、心もまだ立ち直っていない。
でもこの悲しみや不安という白と黒のがれきの中から、
思いがけず大切なものを拾った。
きらきらと光るものを見つけた。

怖くて不安でもうだめだと思った時、あの子が泣くなって言ってくれた。
今度は私が助ける番だからね。
みんなの中で目立ちたい思ってたけど、どうせなら喜んでもらえることで目立ちたいな。
みんなが喜んでくれて、自分も楽しいことってなんだろう。
ごはんがおいしい。給食がおいしい。
家族みんなと一緒に食事ができる事が嬉しい!
苦しい時で一緒にいてくれたことで分かった。なんだかみんなあったかい。
まだ大人にだってなっていないもん。
あの時よりも大変なことだってあるかもしれないんだから、強くなりたい。
お金って何でも助けてくれると思ってた。でもそうじゃない。
野菜だって作る人、運んでくれる人がいるから買えるんだ。
一人一人がそれぞれの場所で頑張ってるから、みんな幸せでいられるんだ。

昨日、家族で野球の試合を見に行った。
今は飛行機や鉄道はどこにだって達れていってくれて、
大好きなスイーツも冷蔵庫に入っている。
でもあの出来事から、何かが変わった。
もっと大きな不安や悲しみを知って、
もっと大きくて深い喜びや大切なものがあることを知った。
温かな心が本物の力を持つことを見つけた。
当たり前だと思っていた世界がちっとも当たり前じゃなくて、
それぞれがとても大切な存在だということに気がついた。
僕達は大きな悲劇から、いや大きな悲劇を経験したからこそ、
きっとたくましく、より広く、大きくなって絶対に高く深く成長することができる。